戦後日本における在日コリアンと山口組:歴史の交錯と社会的ステレオタイプ

2025/05/24

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戦後日本における在日コリアンと山口組:歴史の交錯と社会的ステレオタイプ

戦後の日本社会において、「朝鮮人犯罪」や「ヤクザ」といった言葉は、しばしばセンセーショナルな文脈で語られてきました。とりわけ在日コリアンと山口組との関係は、歴史的・社会的に複雑な構図を成しており、単純な善悪の枠組みでは捉えることができません。本記事では、歴史書や学術論文、また山口組三代目組長・田岡一雄の自叙伝などを参考に、この関係性を多面的に考察します。

戦後日本における在日コリアンと山口組
戦後日本における在日コリアンと山口組

戦後の混乱と在日朝鮮人

1945年の敗戦後、日本は物資も秩序も失われた混乱期に突入しました。この時期、多くの在日朝鮮人が日本に残留し、あるいは新たに渡航してきました。彼らは日本社会において「敗戦国民」ではないという特殊な立場にあり、その一部が闇市経済や非合法活動に関与したとされます。しかし、これには偏見を伴った報道や行政の視点も含まれており、犯罪率や暴力行為についての記録も一様に信頼できるものとは限りません。

山口組の台頭と「朝鮮人狩り」の伝説

戦後間もない時期、山口組は関西を拠点に急速に勢力を拡大しました。特に三代目・田岡一雄の時代は、組織の拡大と共にその影響力も高まりました。この時期にまことしやかに語られてきたのが「朝鮮人狩り」です。1945年前後、在日朝鮮人が一部地域で略奪や暴行を働いたという話に対し、山口組が自警団的な役割を担い「報復」に出たというストーリーが存在します。

しかし、田岡一雄自身の自叙伝ではこのような行動に対して明確な肯定も否定もなく、むしろ当時の混乱と差別的空気を淡々と記述するに留まっています。また、歴史学者や犯罪社会学の研究では、この「朝鮮人狩り」自体が誇張された都市伝説である可能性も指摘されています。

ヤクザ組織内の在日コリアンの存在

一方で、ヤクザ社会における在日コリアンの存在は事実として広く認識されています。特に1960年代以降、経済的地位の制限や社会的排除を受けた在日コリアンが、一部ヤクザ組織に身を寄せた背景があります。山口組を含む大規模組織には、幹部クラスにまで昇格した在日コリアンも存在しました。

これは単純な「敵対関係」ではなく、利害の一致や共通の排除構造を背景とした「共存関係」であったとも言えます。このような複雑な関係性を読み解くには、単なる犯罪史ではなく、社会学的視点や差別構造の分析が不可欠です。

山一抗争と在日コミュニティ

1980年代に起こった「山一抗争」(山口組と一和会の抗争)は、日本の暴力団史における重大事件ですが、ここにも在日コリアンの存在が背景にありました。一和会には多くの在日出身者が関与していたとされ、その分裂劇には民族的な軋轢が絡んでいたとの見方もあります。ただし、この点についても信頼できる学術的な裏付けは限られており、断定は避けるべきでしょう。

メディアとステレオタイプの再生産

映画や小説などのフィクションでは、在日コリアンがヤクザとして登場することが少なくありません。これにより、社会的ステレオタイプが再生産され、差別的なイメージが強化されてきた側面があります。犯罪社会学の研究では、こうした表象が実際の偏見や差別に結びついていることが指摘されています。

現実の在日コリアン社会は多様であり、その大多数は暴力団や犯罪とは無関係な生活を営んでいます。一部の例外をもって全体を語ることは、歴史の理解を誤らせる要因となります。

歴史と向き合うために

在日コリアンと山口組の関係は、確かに一部では交錯してきました。しかし、それをもって単純に「在日は犯罪者」「山口組は民族主義者」と決めつけることは、歴史の複雑さを見誤る行為です。田岡一雄のような当事者の証言、歴史学者の検証、そして在日社会自身の語りを通して、多角的に理解する姿勢が今こそ求められています。

社会の中にある偏見や差別を乗り越えるためには、感情的な言説に流されず、学問的かつ冷静な視点を持つことが必要です。そしてその視点は、過去の出来事を単に糾弾するためでなく、未来の共生社会を築くための足がかりとなるはずです。

出典・参考文献
鄭栄桓(チョン・ヨンファン)『〈在日朝鮮人〉ってどんなひと?』平凡社
金賛汀(キム・チャンジョン)『ヤクザと在日』文藝春秋
宮崎学『突破者:戦後裏社会のエトス』幻冬舎
田岡一雄『山口組三代目』洋泉社
木村聡『山口組と日本』講談社現代新書
藤田五郎「戦後初期の『朝鮮人犯罪』報道と治安意識」『歴史評論』第700号
朴一(パク・イル)『在日韓国・朝鮮人』中公新書
山口祐二郎「在日コリアンと暴力団:アイデンティティと共存構造」『犯罪社会学研究』第45巻、日本犯罪社会学会
小田中直樹「戦後社会と暴力の論理」『日本歴史』第746号

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