USSインディアナポリス (CA-35) の悲劇:原爆輸送、沈没、そしてサメの襲撃
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USS Indianapolis (CA-35) |
インディアナポリスの任務
USSインディアナポリス (CA-35)は、アメリカ海軍のポートランド級重巡洋艦として第二次世界大戦で活躍した艦船です。この記事では、インディアナポリスの重要な任務、沈没に至る経緯、そして乗員が直面した過酷な運命とサメによる襲撃について詳しくお伝えします。
1932年にその歴史を刻み始めたインディアナポリス。戦火の中、多くの戦闘を経験し、その名を知られる艦でしたが、とりわけ注目を集める任務が1945年7月にありました。この時、インディアナポリスは極秘の使命を託され、アメリカ本土からテニアン島へ「リトルボーイ」と呼ばれる原子爆弾の主要部品を届けました。この任務の果てに続く出来事が、彼女の名をさらに特別なものにしたのかもしれません。
航海とその行く末
1945年7月26日、インディアナポリスは無事テニアン島に到着。その荷を降ろすと、次の目的地であるフィリピンのレイテ湾へ向けて新たな航路を辿りました。その時、船上にいた1,195名の乗員たちは、任務の成功を祝福し、次の目的地への期待に胸を膨らませていたことでしょう。しかし、広がる海がこの旅の終着点になるとは、誰も知る由もなかったようです。
暗闇の中での衝撃
同年7月30日未明の静寂が破られる瞬間、日本の潜水艦I-58から放たれた魚雷が、インディアナポリスを容赦なく襲いました。わずか12分という短い時間で、その巨大な艦は海の底へと姿を消しました。約300名の命が船と共に失われ、残る約890名が深い海の上を漂うこととなります。
生存への闘いと忍び寄る影
救命ボートも十分でない状況下、海上に取り残された彼らは、炎天下の灼熱や冷え込む夜、そして水や食糧の欠乏と戦わざるを得ませんでした。やがて、海中から現れたのは、無数のサメ。最初は静かだったその存在も、漂流する人々を次第に脅かし始めます。サメを蹴散らし追い払おうとする試みが続く一方で、負傷者や孤立した者たちは、次々に姿を消しました。恐怖と疲労が支配する中、数多の命が失われた時間が広がります。
救助のその後
3日半後、偶然現れた哨戒機が生存者を発見し、救助の手が差し伸べられました。けれども、その時点で命を繋いでいたのはわずか316名。多くの犠牲を伴うこの出来事は、アメリカ海軍史の中でも忘れることのできない悲劇として語り継がれるようになりました。
まとめ:映画「ジョーズ」
この壮絶な話はスティーヴン・スピルバーグ監督の映画「ジョーズ」(1975年)でも印象的に描かれています。クイント(ロバート・ショウ)が船上でブロディとフーパーに語るシーンは、静かな緊張感の中で繰り広げられます。
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JAWS (1975) |
クイント、ブロディ、フーパーがサメを待つ夜、船内で酒を飲みながら互いの傷跡を見せ合う軽い雰囲気の中、ブロディがクイントのタトゥーを見つけ「それは何だ?」と聞く。
するとフーパーは「母ちゃんだろ」(笑)とからかうが。
クイントは「USS Indianapolis」と重く答える……。
雰囲気は一変し、フーパーが「あのインディアナポリスにいたのか?」と驚き、ブロディは「何があったんだ?」と尋ねる。
クイントは淡々と、しかし重々しく語り始める…
「日本潜水艦が魚雷を2発撃ち込んできた。」
「俺たちはテニアン島からレイテに向かってた。広島の爆弾を届けた後だ。」
「1100人が海に投げ出され、船は12分で沈んだ」。
サメの襲撃を「黒い瞳、まるで人形の目だ」「それが嚙みつく瞬間、ひっくり返って白くなる」と不気味に描写し、「316人しか生き残れなかった」と締めくくるこの独白は、観る者の心に深い恐怖と哀しみを刻みます。
このシーンは、ショウの迫真の演技とシンプルな演出で、インディアナポリスの悲劇を永遠に記憶に残るものにしました。
Stanton, Doug. In Harm's Way: The Sinking of the USS Indianapolis and the Extraordinary Story of Its Survivors. Henry Holt and Co., 2001.
- 生存者たちの証言をもとに、インディアナポリスの沈没から救出までを克明に描いたノンフィクションの決定版。
Cox, Stephen. The USS Indianapolis: Disaster in the Philippine Sea. Praeger, 2007.
- 沈没の背景や海軍の対応、指揮官チャールズ・マクベイの裁判に至るまでを包括的に解説。
National Archives and Records Administration (NARA), USS Indianapolis (CA-35) Action Reports and Court-Martial Records.
- 米国立公文書館に収蔵されているインディアナポリス関連の公式記録と裁判資料。
United States Navy, Naval History and Heritage Command: USS Indianapolis (CA-35).
- アメリカ海軍の歴史部門による公式解説と記録。
Lech, Raymond B. All the Drowned Sailors: Cover-up of the Sinkings of the USS Indianapolis. Pocket Books, 1985.
- インディアナポリス事件に関する政府の隠蔽疑惑と生存者の証言を探る研究書。
Newcomb, Richard. Abandon Ship!: The Saga of the USS Indianapolis, the Navy's Greatest Sea Disaster. Harper & Row, 1958.
- 沈没の初期から広く読まれた報道ベースの歴史書。
Jaws. Directed by Steven Spielberg, performances by Roy Scheider, Robert Shaw, and Richard Dreyfuss, Universal Pictures, 1975.
- クイントの独白シーンを通じてインディアナポリス事件が描写された映画。文化的影響も大きい。
日本放送協会(NHK)『ドキュメント 太平洋戦争:USSインディアナポリスの悲劇』NHKスペシャル、2015年放送。
- 日本語の視点から沈没事件を扱った放送資料。
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